エレクトロクロミズム(EC)

 電気化学的な電子の授受、つまり酸化還元反応によって電子状態を制御し、物質の色や光学特性を制御することが可能です。この現象はエレクトロクロミズム(EC)と呼ばれ、電子ペーパー防眩デバイス省エネ調光ガラス(スマートウィンドウ)等のデバイスへの応用が期待されています。本研究では、下記のように様々な材料を利用したエレクトロクロミズムについて研究を行っています。

有機化合物のECとフルカラー表示への展開

 有機化合物のECは、分子設計の多様さから様々な色を発現でき、応用展開が期待されています。これまで、酸化還元可能な色素や金属錯体、顔料薄膜ならびにπ共役系高分子など、数多く報告されてきました。マルチカラー表示への展開として、フタル酸エステル誘導体や類似化合物が検討され、透明状態からシアン、マゼンタ、イエローの明瞭なEC発色を示すことが視覚的、色度座標的に明らかとなっています。誘導体の電気化学特性を解析し素子構成等を改善した結果、5000回以上の繰り返し駆動にも耐えうるECセル構築が可能になり、三層積層により青、赤、緑が表現可能となりました。またフレキシブル電極基板と高分子イオン伝導体を用いることで、フレキシブル化が可能となっています。

有機EC材料を用いた三原色表示

1) Organic electrochromism for a new color electronic paper. Norihisa Kobayashi, Shohei Miura, Mami Nishimura, Hikaru Urano, Solar Energy Materials & Solar Cells, Vol. 92, No. 2, pp. 136-139 (2008).

局在表面プラズモンを応用した銀析出型EC素子

 電極上への銀の電気化学的な還元析出によって色調変化を示す銀析出型EC素子は、透明状態から黒色への変化や、シアン・マゼンタ・イエロー等のマルチカラー発色が可能です。このカラー発色は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)という析出銀粒子の粒径や形状に依存して入射光の吸収波長が変化する現象を利用しています。教会などで見られるステンドグラスや日本伝統の江戸切子もこの現象によって発色しています。

銀析出型EC素子

局在表面プラズモン共鳴

1) Multicolor Electrochromism Showing Three Primary Color States (Cyan−Magenta−Yellow) Based on Size- and Shape-Controlled Silver Nanoparticles. Ayako Tsuboi, Kazuki Nakamura, and Norihisa Kobayashi, Chemistry of Materials, Vol. 26, No. 22, pp. 6477-6485 (2014)

ハイブリッドキャパシタ構造EC素子

 これまで酸化発色種もしくは還元発色種を両方含むEC素子を構築してきましたが、それらを単純に混合した溶液を用いたEC素子では酸化種と還元種の混合色しか得られませんでした。これは、作用極および対極において同量の電荷量が消費され、両方の発色種が生じるという原理的な問題のためです。ハイブリッドキャパシタ構造EC素子は従来のEC素子と全く異なり、対極に電気二重層キャパシタ電極を使用しています。反応電荷量を対極でのレッドクスによらず補償するため、各々のEC材料の発色を独立に制御可能とし、多色カラー表示が実現可能であることが明らかとなりました。このようにハイブリッドキャパシタ構造EC素子は、単一構造内で酸化および還元発色種を単純に混合した溶液を用いて無色から多色まで複数の光学状態を安定・可逆に発現可能である点が革新的であり、学術的にも産業利用の観点からも非常に注目されています。

ハイブリッドキャパシタ構造EC素子概念図

1) A novel organic electrochromic device with hybrid capacitor architecture towards multicolour representation.  Z. Liang, K.Nakamura, N.Kobayashi, Phys. Chem. Chem. Phys., 2018, 20, 19892-19899.

2) A multicolor electrochromic device having hybrid capacitor architecture with a porous carbon electrode.  Z. Liang, K.Nakamura, N.Kobayashi, Sol. Energy Mater. Sol. Cells, 2019, 200, 109914-109921.